ハイブリッドアーキテクチャでクラウドを利用する際の3つの神話
こんにちは。ソリューションアーキテクトの下佐粉(しもさこ)です。
Stephen Orbanが書いているAWS Enterprise Collectionから「ハイブリッドアーキテクチャでクラウドを利用する際の3つの神話(Three Myths about Hybrid Architectures Using the Cloud)」(2015年3月10日)を翻訳しました。
(※2015/10/23追記:指摘があり、文章の最後をより分かりやすい訳に入れ替えました。Thanks! 山本さん!)
Stephenは、AWSのEnterprise Strategyのトップを務める人物で、エンタープライズがAWSを使っていく上での色々な思想や経験をブログで公開しています。この「ハイブリッドクラウド3つの神話」は、おそらく同様の意見を聞いた事がある方も多いのでは、という内容で、クラウドの使い方について改めて考えさせられる内容になっています。
ハイブリッドアーキテクチャでクラウドを利用する際の3つの神話
”人生において最も大変なのは、どちらの橋を渡り、どちらの橋を燃やすのかを学ぶことだ” - デヴィッド・ラッセル
私はいくつかのビジネスソリューションをクラウド上に構築することをCIOとしてリードしていく中でハイブリッドアーキテクチャについての自身の見解を作りあげてきました。直近5ヶ月では大企業のCIOやCTOの方たちと何十回もディスカッションをする機会を得て、幸いにもこのトピックについての考えをより深めることが出来ました。並行して私はハイブリッドアーキテクチャに関するブログや記事を多数読みましたが、ハイブリッドアーキテクチャでどのようにクラウドを使うにか、業界の共通認識はまだ存在しないように感じています。
企業がクラウドを活用するのには色々な理由があります。クラウドを採用した企業は、敏捷性(アジリティ)の向上、コスト低減、世界展開が可能になる、といったメリットが得られます。私が会話した多くのCIOは、クラウドによって彼らの貴重なリソースをビジネスに利益をもたらさないところから利益を得られるところへ注力させていました。別の言葉で言えば、密に、強固に結合されたインフラを管理する作業を、彼らのブランドとして認識されているプロダクトやサービスを作るためのアクティビティに変えたのです。
とは言うものの、今日の多くのエンタープライズIT組織は、実証済のインフラやガバナンスが存在し、それを日々運営しています。私はこれらのインフラをできるだけ早くクラウドに移行したいと考える多くのCIOと会話しましたが、結局はクラウドへの移行活動はジャーニー(旅路)であって、時間がかかるものだということに気づかされました。このジャーニーの期間中も企業は彼らのシステムを動かし続け、投資から最大の成果を得つづける必要があるのです。エンタープライズのクラウドジャーニーについて書いた投稿(英文)で、企業がどのようにAWS Virtual Private Cloud (VPC)とDirect Connectを使って、オンプレミスのインフラをAWSに拡張し、ハイブリッドアーキテクチャを作成しているかを説明しました。これが現時点の私にとって説得力のあるハイブリッドアーキテクチャと言えるものですし、多くの企業がクラウドからの利益を最大化するために使っている手法でもあります。
ここからさらに進んだハイブリッド周辺の議論は、少し複雑です。私は、最初は良いと感じたが考えを深めるにおいて支持しなくなったクラウドマーケットでよく聞く3つのトレンドがあると考えています。それが以下の3つの神話です:
神話1:ハイブリッドは恒久的な終着点である。
「恒久的な」はこの考え方を表現するには強すぎる表現でしょう。レガシーシステムを持つ巨大企業はしばしばハイブリッドクラウドアーキテクチャを複数年単位の計画で採用します。企業のクラウド・ジャーニーはそれぞれで異なるものだし、自身が快適と感じる場所を終着点とするものです。ただ近い将来には、ほとんどの企業が自分自身のデータセンターを運営し続けることはなくなるだろうと私は考えています。おそらく3年以上未来の話でしょうが、15年以内には確実にそうなっている自信があります。この変革を加速する要素が少なくとも4つあります:
1.クラウドの採用が進むにつれ、クラウドプロバイダーの「規模の経済」は成長し続ける。これはいずれにせよクラウド利用者に利益をもたらし続ける。
2. クラウドテクノロジーによるイノベーションは、未だかつてないペースで進む。AWSは2014年に515回の機能拡張を実施した。過去3年間で見ると毎年ほぼ2倍のペースでイノベーションが成長している。
3. 企業がビジネスを実施するために利用しているテクノロジー(eメール、オフィスツール、人事ツール、CRM等)のクラウド上での構築が増えてきている。
4.企業が利用する技術やビジネスがクラウド上に移行する数は急速に増加している。AWSマーケットプレースやAWSパートナーネットワークをチェックすると状況が分かるだろう。
神話2:ハイブリッドによって、オンプレミスインフラとクラウドの間でアプリケーションをシームレスに行き来できる
一見これは魅力的に見えますが、前提条件に根本的な問題を抱えています。それはクラウドとオンプレミスで同等の能力が存在すると考えていることです。企業は自社のデータセンターが持っていない能力、すなわち真の柔軟性、セキュリティ、使った分のリソースのみへの支出、継続的な革新、等を得るためにクラウドに移行します。アプリケーションが自社データセンターとクラウドを行き来できるように設計するということは、利用できる機能を最大公約数に制限してしまうという事を意味しているのです。
神話3:ハイブリッドによって、アプリケーションが複数のクラウドプロバイダー間でシームレスに結合することができる
この議題は詳しく検討する余地があるように思えます。企業は、自身のビジネスニーズに対応するためにバラエティに富んだ様々なクラウドソリューションを利用しています。たいていの場合、ソリューションは企業のデータセンター以外の場所(多くのケースではAWS)で最適に動くようにパッケージされていて、結果として複数のインフラをミックスして使う事になります。これは全く納得できる考え方でしょう。ITエグゼクティブは自社が解決しようとしている課題を認識し、制約の中でベストなツールを選択するようにトライし続ける必要があるからです。
私が危惧しているのは、1つのアプリケーションを複数の異なるクラウドプロバイダーにまたがって動かすように設計する罠にはまってしまうことです。エンジニアがこの罠に惹かれるのは理解できます- 異なるクラウドを接続して一緒に動かすことは、大きな達成感をエンジニアに与えるものです。しかし残念ながらこの方法は、ファーストプレースとしてクラウドを活用している企業の生産性向上力を引き下げてしまいます。つまり私にはまるで出発点に戻ってしまったように感じるのです。自社のインフラを管理する代わりに、他の複数のインフラを管理する事になってしまっています。また、神話2で説明したようにこれは利用できる機能を最大公約数に制限してしまうのです。
企業がベンダーとの良好な関係を維持するために、および1つのプロバイダーにベンダーロックインされることを避けるために、この選択(マルチクラウド)をとることはありえます。ベンダーロックインについては、クラウド業界が懲罰的なビジネス戦術(※訳注:ライセンス違反監査による追徴金等)に向かうことはほとんどなさそうですが、大きなクラウドプロバイダーがサービスを辞めてしまうリスクについては考えておく必要があります。一方で、この懸念を最小化するよりよい方法が他にあるように思うのです。企業が、まったく同じIT環境をつねにデプロイできるような自動化技術を使ってアプリケーションのアーキテクチャを作るという方法です。このベストプラクティスは、クラウドの柔軟性(elastic)の特性を活かすものであり、アプリケーションをインフラから分離するものとなります。これがうまくできれば、別のクラウドプロバイダーに移らないといけないことになっても最小限の負担で済ますことができます。
技術の選択は時に難しいものであり、しばしば不完全です。ハイブリッドアーキテクチャが必ず不完全な選択であるとは言い切れないでしょう。私はみなさんの考えをぜひ聞きたいと思っています。ぜひ議論をさせてください。
進化し続けよう(Keep building),
- Stephen
stephenorban
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