AWS環境におけるERP市場の現状と今後
パートナー ソリューションアーキテクトの松本です。
今回は最近AWS界隈で急速に進んでいるERP on AWSについてのご紹介になります。今までもセミナーや利用事例などでSAP社、Oracle社、Microsoft社、WorksApplicaions社、SuperStream社などの製品を使って、エンタープライズ企業の基幹システムをAWSに移行・構築するユーザー様が多くいらっしゃることをご紹介してきましたが、その流れを受けて名立たるERPベンダー様達がAWSでのビジネス展開を表明頂いています。この回ではAWS上のERPの状況がどのようになっているのかの全体像を把握頂ければと考えています。
そもそもERPとは何なのか?細かい話はその手の専門家に任せるとして、ざっくり説明するとEnterprise Resource Planningの略語で、エンタープライズ企業が効率的に活動できるように人・物・金という資源を上手く管理して有効活用していくためのツールになります。このような性質から「ERPシステムが停止すると企業の活動が停止する」と言われ、所謂“基幹システム”と位置付けられる事が多い業務システムの1つです。管理会計、連結会計、人事管理、販売管理、物流管理、生産管理など、対応業務領域は多岐に渡り、製品ごとに特徴がありますので、ユーザーが必要となる要件を満たすパッケージを選択してご利用頂く形になります。
現状AWSで利用可能な、日本で良く利用される代表的な業務パッケージとしては下記があります。下記の製品名は一例になりますが、皆様がお使いの製品や、お付き合いのあるベンダー様も含まれているのではないでしょうか。
ERPベンダー名 |
代表製品 |
SAP |
SAP Business Suite |
Oracle |
Oracle EBS, Hyperion, JD-Edwards, Siebel, People Soft |
Infor |
Infor CloudSuite, Infor LN, Infor M3, Infor SyteLine |
Microsoft |
Dynamics AX |
WorksApplications |
CCMS(COMPANY), HUE |
SuperStream |
SuperStream NX |
OBIC |
OBIC7 |
OBC |
勘定奉行シリーズ |
GRANDIT |
GRANDIT |
NTT DATA |
Bizインテグラル, Imtra-mart |
ISID |
Positive, STRAVIS |
SCSK |
ProActive |
ディーバ |
DivaSystem GEXSUS |
日立システムズ |
FutureStage |
数年前にはAWS対応製品は殆どありませんでしたが、現在ではグローバルで展開されている製品から国産ベンダーにより日本企業向けに最適化された製品まで幅広いラインナップをAWS上でご利用頂くことができるようになりました。
またサポートされるAWSサービスも増えて来ています。例えばSAP社では認定インスタンスという制度がありますが、日々SAP本社のドイツにて認定されるAmazon EC2のインスタンスタイプは増えており、どんどんユーザーが利用しやすい環境が整って来ています。最近ではC3/R3インスタンスが新たに認定インスタンスに追加されました。(http://aws.amazon.com/jp/sap_japan/)
SuperStream社も最近のプレスリリースにて、同社のERP製品のAmazon RDSでの動作検証の完了と正式サポートを表明しています。(http://www.superstream.co.jp/file.jsp?id=14450)
今後もAWS対応製品や対応するAWSサービスは増えていく予定になっており、AWS上でのERP利用はより便利になっていくでしょう。
利用されるテクノロジーにも徐々に変化が出てきています。長い間、Oracle DatabaseやMicrosoft SQL Serverという商用の既存RDBMSを利用する製品が殆どでしたが、独自のデータストア技術を開発・提供しているベンダーも出始めています。例えばSAP社はHANAというインメモリーデータベースを提供しており、カラムナ型/ロー型の両方のエンジンを持っている上、スケールアウトによる拡張性も兼ね備えており分散型のクラウドアーキテクチャに適しています。WorksApplications社も新しいHUEという製品では独自のデータベースアーキテクチャを開発・採用すると発表しておりCloud Nativeを謳っています。
また、AWS上で提供されるERPのサービス形態も大きく分けると下記に分類することができます。なお、これは各社の製品思想によるもので製品の優劣ではありませんのでご注意ください。
- EC2構築型
- オンプレミス環境と同じようにEC2上にシステムを構築していく形態です。アーキテクチャ的にはオンプレミス環境と大きく変わりませんが、従量課金やオンデマンドなキャパシティ確保、複数データセンター利用による可用性の向上などのクラウドのメリットを享受することができます。殆ど全ての製品はこの形態で稼働可能です。
- EC2 & Managed Service複合構築型
- EC2に加えてELBやAmazon RDS、Amazon DynamoDBなどのManaged Serviceを使用したアーキテクチャになります。一般的な構成としてはロードバランサ部分にELB、アプリケーションサーバ部分にEC2、データベース部分にRDSという形です。Managed Serviceを活用することによって、構築スピードの向上や拡張性、高可用性、自動化 など、より多くのクラウドのメリットを享受できます。SuperStream社はRDS対応を表明しています。
- SaaSシングルテナント型
- SaaS形態ではERP環境の構築から運用管理まで一貫して提供することで、ユーザーは業務にフォーカスすることができます。シングルテナント型ではユーザー毎に環境を構築してサービスを提供する形になります。分離レベルはサーバーレベル(EC2, RDSなど)やネットワークレベル(VPC)など幾つかの形態に分かれますが、提供ベンダーによっては 利用ユーザーごとに運用や構成などにある程度の自由度が持てる場合があります。日立システムズ社のFutureStage for AWSやWorksApplications社のCCMS、ISID社のSTRAVISなどが該当します。
- SaaSマルチテナント型
- システム全体のEPRリソースプールを複数のユーザーで共有利用するような形態です。基本的には利用コストが低い場合が多く、ユーザー視点からはSaaSシングルテナント型と比べERP機能自体の使い勝手は殆ど同じですが、運用や構成へ個別リクエストは基本的には対応できません。これらの条件も提供ベンダーによって異なります。Infor CloudSuiteはこのタイプのSaaSをAWS上で提供しています。
- クラウドネイティブ対応型
- 既存のアーキテクチャを見直し、 クラウドの特徴を最大限に活かす為に新たにクラウドに最適化されたERPシステムです。このシステムで利用されるAWS サービスも様々です。これは今後増えてくると予想されるタイプで、ライセンス等も含め提供形態は多岐に渡ると思われます。WorksApplications社のHUEはこれに該当します。
このようにエンタープライズの特に基幹システムと呼ばれる領域において、技術的観点でのクラウド最適化が急速に進んでいます。ERPシステムはここ数年それほど大きなアーキテクチャの変更がされませんでしたが、クラウドの登場によってERPベンダー各社はそのメリットを活かす為の取り組みを色々な形で開始しています。この基幹システムといわれる領域で大きな技術革新が訪れる日はそう遠くは無いかもしれません。
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